
藤沢周平『ささやく河』(新潮文庫)読了。捕り物長編。
“(主人公)伊之助は江戸の町をたゆみなく歩く。多くの通りを歩き過ぎ、多くの橋を渡る。
江戸の空に季節を読んで、水面に屈託やあきらめ、それから希望を溶かす。この小説を
読むとき、江戸は水の町なのだとわかる。そして口には出さないが、伊之助が江戸の町並を
愛していることもにじむようにわかる。それは藤沢周平の江戸に対する執着であり、愛でもある。
これがやはりハードボイルドの最大の要件ではないだろうか。”
(関川夏央氏:「ささやく河」解説より引用)
「橋ものがたり」では、世界有数の水の大都市・江戸のロマンスを描いていたけれど、
この作品は水の都市のdetective story。R.チャンドラーに通じるものがあるような。。
別の作品(「又蔵の火」)の解説では常盤新平氏が「暗殺の年輪」「用心棒日月抄」
「一茶」「海鳴り」など藤沢文学にぞっこんになっていく様を語っていますが、
これはハマってしまった人間にしかわかりますまい。
ワタシも海外文学ばかり読む派でしたが「海鳴り」などは日本のドストエフスキー
「罪と罰」としてぜひおすすめします。
ところで藤沢周平の文体の品格も見事ですが、蓮田やすひろ氏の装丁(新潮文庫)も
素晴らしい。
「ささやく河」でいえば、若い女が橋の上から欄干に足をかけて水面を見つめている。
橋の下には燕が飛びかっていて、世間には生命の息吹があふれているのに、実は女は
燕を見ているのではなく、ある深い哀しみを湛えていて。。
物語のテーマの核心をシンボリックに、削ぎ落とされた表現で描いているのが流石。
以前、どこかの新聞で連載小説の挿絵を見たことがありましたが、
モノクロのシンプルな美が紙面に映えていました。