最近読了した藤沢周平。
『又蔵の火』(文春文庫)
表題作の「火」というのはいわば人間の情念の「火」。
主人公がこころの中に燃やしていた「火」とは。。。。
直木賞受賞『暗殺の年輪』と同時期に書かれた5篇。
以下常盤新平氏の「解説」から。
“(『暗殺の年輪』『一茶』『海鳴り』だけでなく)
『又蔵の火』もまた吹聴したい作品集である。
又蔵や宇之吉や喜之助のような人間を書くのが小説ではないか、
これこそ小説の中の小説ではないかと、
まだ読んでいない人たちに言ってみたい。”
『一茶』(文春文庫)
作者がなぜ一茶を小説にしようと思ったのか。
そのプロセスが「解説」でも紹介されていますが
簡単に言うと。。
氏が肺の病気で闘病中、病院の句会に入り、
静岡の俳誌「海坂」に作品を送り、指導を受け、
評価されるも、熱が冷め遠ざかる。でもその機縁で
俳句の書物を読み一茶を知るうちに、善良な眼で
小動物を愛でる一般的な一茶像が音を立てて崩れていく。
不幸な生い立ち。義弟との遺産争い。荒淫。
「平凡かつ非凡なただのひと」人間小林一茶の
生から死までをリアルに再現しようと思ったのは、
うまくいかない人生に翻弄された、日陰のひとを
見たからなのでしょう。
春立や四十三年人の飯
名前は上がっても実は極貧だった一茶。
実はこれ日本のユダヤ文学だったんだなあ。
マラマッドの描く世界のように救いようがなく悲惨。
姓名判断的には「一茶」の大凶数10画が響いたのかも。。
(「小林一茶」は文筆人気運の21画なれど。。)
この作品を読むと、人生の短さとともに、
俳句というクリエイティブな世界に派閥だの
お師匠へのごますりだの、藤沢氏が句作を続けるのが
イヤになったわけも見て取れます。
ちなみに藤沢周平が色紙にサインとともに書く句は
軒を出て犬寒月に照らされる
秀逸です。